


肥満者や糖尿病者は歯周病に罹りやすい。このことを示す有名な事実がm著名な肥満を呈し世界で最も高頻度に2型糖尿病を発症する米国アリゾナ州在住のPima Indianでは糖尿病者で若くして重度の歯周病が発生する、ということであろう。Pima Indianでは15歳から34歳までの糖尿病患者のうち実に半数近くが歯周病に罹っているといわれる。
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一方、肥満・糖尿病で重症化した歯周病は逆に軽微な慢性炎症としてインスリン抵抗性惹起要因となることが判明している。肥満者の内臓脂肪には腫瘍壊死因子(TNF-α)が高発現しており、このTNF-αが肥満者においてインスリン抵抗性を惹起することがわかっている。TNF-αは脂肪組織で産生されるアディポサイトカインの一つであるが、元来マクロファージから産生され炎症の成立と進展に重要な働きを示す炎症性サイトカインとして知られている。グラム陰性菌は、リポ多糖からなる内毒素を産生する。内毒素はマクロファージからTNF-α産生を促進する。これらのことから、肥満者では脂肪組織由来TNF-αが、一方重度歯周病患者ではマクロファージ由来TNF-αがインスリン抵抗性を惹起するものと考えられる。(下図)

裏を返せば、歯周病を治療することでTNF-αの産生性が低下し、インスリン抵抗性が改善し、結果的に血糖コントロールが好転するという説が成り立つ。米国や我が国における介入研究から重度歯周病を治療することによるHbA1cの改善効果は最大で1%程度であることが明らかにされている。インスリン抵抗性が存在すると生体はこれを補おうとしてより多くのインスリンを産生するようになる。高インスリン血症の状態である。この状態が長く続くと、やがてインスリン産生細胞であるβ細胞が疲弊してしまい、最終的にインスリン分泌が枯渇する。末期糖尿病である。つまり慢性歯周炎症はβ細胞疲労促進因子として作用することを塾知しておく必要がある。

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局所の感染症である歯周病によってなぜ末梢組織でインスリン抵抗性が惹き起こされるのであろうか。
その鍵を握るのが脂肪組織である。近年、脂肪組織には多量のマクロファージが浸潤・集積していることが明らかにされた。著明な肥満者で脂肪細胞が分解され放出される遊離脂肪酸や歯周病菌の内毒素存在下では、脂肪細胞とマクロファージはお互いに作用しあい多量のインターロイキン6(IL-6)や単球遊走活性化因子1(MCP-1)といったサイトカインを放出する。MCP-1は、マクロファージに対する走化性因子であり脂肪組織へのさらなるマクロファージの集積を促進し、一方IL-6は門脈を介して肝臓に流入し肝臓からの炎症マーカーであるC-反応性蛋白(CRP)の産生を促進するのもと考えられる。
事実、重度歯周病患者ではCRP値が上昇しており、治療によって低下することがあきらかにされている。すなわち、歯周病菌の内毒素により活性化されたマクロファージは脂肪組織に集積し、そこからのアディポサイトカイン産生性をさらに進させ炎症反応を憎悪させるという図式が成り立つ。近年CRPの軽度な上昇、すなわち軽微な炎症を慢性的にかかえておくことで将来的に心筋梗塞を発症する危険性が上昇することが明らかにされ、CRPが心筋梗塞発症の予知マーカーとして有用であると考えられるようになったことから、歯周炎症によってもCRP値が上昇するという事実は大変興味深い。
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このように肥満・糖尿病者で高頻度に重症化する歯周病が逆に軽微な慢性炎症としてインスリン抵抗性を惹き起こすことから、これら3つの疾患は互いに密接に関連しているものと理解しておく必要がある。

